ドイツとスイスに隣接するフランス東部の歴史的な地域で、ヴォージュ山脈とライン川の間に位置します。
ヴォージュ山脈の東側斜面を背にするブドウ畑は、標高平均200mから450mの丘が連なる山脈麓に広がっています。その地形(ボージュ山脈の自然な壁)によって大西洋気圧変動から守られ、多様性を誇る土壌やミクロクリマ(微気候)がブドウの生育に適した環境を整えています。フランスで最も降水量の低い産地(500から650mm)の1つであり、日射量が多く、乾燥した半大陸性気候に分類されます。他の地方と異なる点は、秋には温暖な日中と涼しい夜に恵まれること。これが、ブドウのゆっくりと時間をかけた成熟を促進すると言われ、複雑なアロマ、熟した酸味がワインに爽やかさを与えています。産地名ではなく使用するブドウ品種がワイン名となるのも、この産地の特徴です。
郷土料理は、シュークルート、タルトフランベ、ベッコフ、クグロフなど。フォアグラもアルザス原産です。ボージュ山脈にあるマンステールの谷が原産の、ウォッシュタイプのチーズ、マンステールもワインとともに親しまれています。
生産者名 | Arthur Jean Ginglinger アルチュール・ジャン・ガングランジェ |
Pfaffenheim | ファッフェンハイム |
コルマールから南南西方向に車を20分程走らせた場所に位置するワイン生産が盛んな村です。バロン・デ・ヴォージュ地域自然公園内にあるコミューン のひとつでもあります。村の主な富の源泉は常にブドウの木であったため、1階にはポーチとセラー、2階には居住スペースがある典型的なワイン生産者の家が数多くあります。
ガングランジェ家のドメーヌは、歴史的な街並みが印象的な村、ファッフェンハイムにあります。
畑はそこから西側に車を5分程走らせた丘陵地に点在しています。
アルチュールは子供の頃から両親とともにいつもブドウ畑にいました。
16歳の時、家族のドメーヌで3年間見習いとして働き、大学時代には、JPフリック、ブルーノ・シュレール、パトリック・メイエのもとで実務経験を積みました。
2018年に父のパートナーとしてドメーヌに加わり、2020年から2022年まではオルシュヴィール地区にブドウ畑を借りていました。2023年春からエギスハイムとルーファック地区に90アールの畑をを所有し、62アールの畑を借りてワイン造りをしています。
生産者として恵まれた環境でスタートを切ったアルチュールですが、真面目で実直な性格は、畑と向き合っていくことを苦としない職人気質。両親の愛情を一身に受け、父親や周りの生産者へのリスペクトを抱き、自身の性格を反映させたようなピュアで美しいワインを造りだします。
《テイスティングコメント》
透明感のある黄緑がかったイエロー。
カリン、ハチミツ、レモンの砂糖漬け、金木犀のニュアンス。
骨格の中心に力強くシャープな酸。細やかなスパイス感がアクセントに。
後味に旨味と程よい苦み、アロマティックな果実味がバランスよく口に残る。余韻も長い。
しっかりとした構成で厚みは感じるが、それを感じさせないピュアな仕上がり。
※翌日、アロマティクなニュアンスと奥行きが増す。
《テイスティングコメント》
ガーネットがかった鮮やかなルビー色。少し粘性あり。
ブルーベリータルトのような甘い香りは、時間が経つと上質なピノ・ノワールらしく百合のような艶めかしい香りに変化していく。
ウエットながら強めに感じるタンニンを、旨味と酸味がうまく調和しバランスを保つ。
若干の揮発も色気に感じるほど官能的で、味わい深い。
《テイスティングコメント》
透明感のある黄緑がかったレモンイエロー色。
力強い葡萄のエネルギーを感じる。若干の揮発あり。
白い花の蜜や、陰干しのシードル、キンモクセイ、上品で華やかな香り。
ジンジャーや細かいスパイス、薬草、エネルギーのつまった酸とミネラル感。
カルヴァドスのような高貴な雰囲気もあり、旨味が最後口に残る。
葡萄と畑の環境が持つポテンシャルを感じる液体。
アカハタのバター煮など、繊細で濃厚なソースと相性良さそう。
※翌日も遜色なく美味しく楽しめる。
《テイスティングコメント》
艶やかなルビー色。
果実の熟した濃密な香り。若干の収れんあり。
アメリカンチェリー、ザクロ、ハーブ、熟したプラム。
タンニンがウエットで細かく溶け込んでいる。
ドライで構成がしっかりしている。
アフターに、ほんのり樽からくるリッチな複雑味を感じる。
赤身の肉や羊のタルタルなど料理全般と相性良さそう。
※翌日も何の遜色もない。香りが香水のように洗練され雑味が消える。
アルチュールは英雄アーサー王と同じ綴り。
エチケットにはアーサー王にかけて葡萄の房の上で剣を持ったアルチュールが風刺画として登場している。心根の優しいアルチュールには剣ではなくアカシアの方が「らしいわね」と母親のエレーヌは茶化していた。(※アーサー王とは「アーサー王物語」で知られ古くから伝説の英雄として語り継がれている人物。)
ドメーヌを訪れたとき、迎え入れてくれたのは父親のジャン・フランソワだった。
アルチュールの父親でブリュノ・シュレールの従兄弟。彼自身が偉大な生産者である。
息子アルチュールが譲り受けた畑を出来る限り隈なく丁寧に案内してくれた。
息子が手に入れた畑がどれだけ貴重なものか彼が一番理解している。
ドメーヌに戻ると、敷地内で楽しそうに話し込んでいた若者たちが居た。
その中の一人がアルチュールだった。
まだあどけない雰囲気をまとったその青年は恥ずかしそうに挨拶に応えてくれた。
そのあと、料理上手と評判のエレーヌの手料理を皆で頂いた。
あまりにも温かくて美味しいエレーヌの料理は感動的だった。
家庭的な雰囲気のなか席が隣だったアルチュールにいくつか質問をさせてもった。
途中、両親から、アレを取ってこいとか、アレ持ってきてとか、頼まれる度、話を中断し
文句も言わずに直ぐに席を立って言いつけに従うアルチュール。
なんて素直で優しい子だと感心した。質問にも、ひとつひとつ真剣に丁寧に答えてくれる。
とにかく純粋で真っすぐ。それがアルチュールという人。だと思った。
エレーヌが茶化した`アカシア`というのには理由があった。
アルチュールの趣味が、近所の森を散策しアカシアの木を集めることだったからだ。
木のアーティスト。と両親は楽しそうにそう言った。
集めたアカシアの木をつかって家族のためにベンチや家具を作る。
アルチュールが6歳のとき、交通事故に遭った話を母親のエレーヌがしてくれた。
いま元気に生きていることが不思議に思えるほど大きな事故だったという。
それが原因で左足の長さが6cmも違ってしまった。
エレーヌの話を聞いている間、当時の両親の気持ちが痛いほど伝わってきて、胸が苦しくなった。その後、大手術が成功した結果、今うまく歩けている。元気に畑仕事が出来ていることが奇跡のようだ。
子どもは大きくなっても、小さい頃の、一番可愛い頃の思い出を親はずっと忘れない。
あまりにも可愛いかったから、よく思い出す。だからいつまでも忘れない。
その頃に、あまりにも辛い思いをさせてしまったと、言わないけど両親の気持ちが伝わってきた。大切な息子は、ずっと大切だ。その愛情を素直に受けたアルチュールは、本当に真っすぐに、いま自分の道を着実に進んでいる。
アチュールがワイン造りに興味をもったのは中学生の時だった。
その頃から家の向かいにドメーヌを構えるピエール・フリックや、パトリック・メイエ、シュレールの畑を手伝っていた。
父親のジャン・フランソワも物心ついた時から父の仕事を手伝っていたという、実家は栽培農家だった。
自分が自然に畑の仕事を手伝った経緯と変わらず息子のアルチュールも畑仕事を苦だと思わずに取り組んでいる。
そのことにジャン・フランソワは嬉しい気持ちで見守っているようだ。
自分よりも良い畑を手に入れた息子に対して悔しそうな素振りをするが、内心嬉しいというのが顔に出てしまっている。
アルチュールが取り組む区画は以下の通りだ。
①Jean Baptiste Adamから譲り受けた0.65haのオーセロワ、ピノ・ブラン(樹齢 50-60歳)が植わるKiostermattという区画。
湿度が高く乾燥しない土地だから、ペティヤンやクレマンに適しているよう。2004年からビオディナミ。 アルチュールは2023年から所有。 隣りはブリュノシュレールの畑(ⅢKLトワカーエル) 。譲り受けたときシュレールと半分ずつ分けた。
②0.2haのピノ・グリ(樹齢25歳 )が植わる景色の素晴らしい区画。アルザスの冷涼な地域にして標高は400mある。2,3年後までにテラスをつくる予定。
③Pfersigberg/HoernleというGCの区画。 シャンデゾアゾー(シュレールピノ)の隣り。2023年から所有。真下にシュレールのアッシュリースリング。ゲヴェルツにしては暑いから辛口に造るのが難しい。今後グレッパージュ(根を残したまま)ピノ・ノワールなどに変える予定。ここだけ石灰質土壌で皆が欲しがっていた区画。
④ボーレンベルグ(地区名)。0.25haプルミエクリュ。アルザスの中で一番雨が少なく乾燥している。生態系保護区域。プレートがぶつかって溝になった部分で表土が深い土地。
これからがとっても楽しみなアルチュール。期待を込めて精一杯応援していきたい。(2023年4月)